2012年4月10日火曜日

日本光線療法協会/光の医学研修会


■光線療法は食欲を増す

食欲がなく、消化・吸収が悪いと、肝心の体力がなくなるので抵抗力を失い、いわゆる悪循環の状態に陥るため、あらゆる場面でマイナスに働く。
反面、食欲が増し、消化・吸収が良くなれば、体力がつきあらゆる場合にプラスに作用する。
この単純にして明快な事実を敢えて述べたのは、あらゆる病気の治療において栄養の持つ意義は決して軽くはないからである。
ところで、『光線療法をしたら食欲が増した』と言う人は多い。実際、消化器系疾患の患者だけでなく、さまざまな病気で光線療法を経験した人が異口同音に口にする。
では光線療法で何故食欲が増すのだろうか?
今回は光線によって生成される光化学物質が消化器系に及ぼす様々な作用について考察する。

■生体内活性物質(オータコイド)について

光線療法の効果は、光線の生体に及ぼす生理作用によってもたらされる。
その詳細については未だに解明されていない点も多いが、従来からさまざまな面から論じられている。
中でも主として紫外線により生成される光化学物質が生体内活動物質(生理活性物質またはオータコイドとも言う)として、間接的に消化器系に及ぼす生理作用は重要である。
生体内活性物質について付け加えておく。生体内で上方を伝達する物質として、ホルモンや神経伝達物質がよく知られているが、これと異なる科学的作用物質として、生体内に存在して、ある条件下で活性化され作用する物質群があり、これを生体内活性物質と言う。
これら生体内活性物質としては、ヒスタ� ��ン(ヒスチジン)・セロトニンキニン・アンギオテンシン・プロスタグランジン・トロンボキサン・ロイコトリエン・プラスミンなど知られており、それぞれ構造式はまちまちであるが、作用領域、作用時間はほぼホルモンと神経伝達物質の中間に位置する物質群である。


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■光線は生体内活性物質を生成する

光線(主として紫外線)を照射すると、光化学反応によって光化学物質(光産物)としてのビタミンDが生成され、ホルモンとしてさまざまな臓器、器官に作用することは広く知られているが、これ以外にも数多くの化学的作用物質が生成され、生体内活性物質として作用する。
光線により生成される化学的作用物質については明らかにされていない部分も多いが、これまでの研究からおおよそ次のように考えられる。
まず光線を照射して最初に起こる即時反応の主役はヒスタミンの遊離で照射を中断すれば1時間以内に終息する。次いで30分から1時間ないし3時間位してプロスタグラン� �ンが作用し始め12時間くらい続く。この間、6時間を中心にプラスミンの活性が高まる、とされている。
ここでは消化器系に及ぼす影響に的をしぼって、まずビタミンDの作用について述べ、次いでヒスタミン(ヒスチジン)とプロスラグランジンの作用を中心に、キニン、プラスミンなどについても、光化学物質が生体内活性物質として如何に作用するかについて述べることとする。


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■ビタミンDの作用

ビタミンDはあらゆる生理機能に関わっており、消化器系にもさまざまな影響を与えている。
以下、その主な作用に触れておく。
(1) ビタミンDのホルモン様作用の標的器官に小腸粘膜の上皮細胞があり、カルシウムの吸収に不可欠なカルシウム結合蛋白を生成する。
(2) 副腎に作用して副腎皮質ステロイドホルモンの分泌を促して抵抗力を高め、ストレスに起因する疾患、例えば神経性胃炎などの治療予防に有用である。
(3) ビタミンDの直接作用に加え、間接的にカルシウム代謝を円滑にすることによって、免疫応答を強化し、ウイルス性疾患や細菌などの病原微生物の関与する疾患(細菌性腸炎消化性潰瘍など)や免疫異常の関与が疑われる疾患に作用
(4) インスリンの分泌を促して、糖代謝を改善するので、糖尿病の治療糖尿病合併症の予防に有効である。
(5) 近年、増加が著しい大腸ガンの予防に有益なことが示唆されている。

■ヒスタミンの作用

これまでの研究結果から、光線療法により血圧の下降に一致して比較的速やかに胃液の酸度が増すことが明らかにされている。この現象は胃酸の欠乏者において特に強く現れるが、この機序に光線で生成される生体内活性物質のヒスタミンが主として関わっている、と見なされている。このヒスタミンには、細小動脈、毛細血管の拡張作用があり、血管抵抗を減弱して血圧を降下させるのであるが、同時に消化器系の微小循環を促進して血行を良くし、胃を守る防御機構を始め消化器系の抵抗力を高める働きを助けている。加えて、胃で胃液の分泌を促し、胃腸で蠕動運動を促進する作用がある。その結果、食欲が増すのである。
以下、現在までに明らかにされているヒスタミンの作用をまとめておく。


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1、 胃液の分泌を促進する
近年になって、ヒスタミンは酸分泌を促すだけでなく、壁細胞(塩酸を分泌する細胞)内で後述するプロスタグランジンが壁細胞に作用して酸分泌を抑制するフィードバックシステムのあることが明らかにされている。

2、 胃腸の蠕動運動能を亢進する
筋肉(平滑筋)の収縮作用によって消化管の緊張を高め、蠕動運動を強める。

3、 消化器系の微小血液循環を改善する
心臓が送り出す血液量の増加に、細小動脈、毛細血管の拡張作用が加わり消化器系の微小血液循環を改善する効果がある。
なお微小循環は消化器系疾患の病因面、殊に消化性潰瘍で重視されておりその停止は防御機構の波錠を意味する。

次に微小循環の果たす主な作用を記す。
(1) 酸素あるいはエネルギーの補給
(2) 粘膜の代謝の調節
(3) 老廃物や水素イオン(酸)の処理
(4) 重炭酸イオン(塩基)の運搬

4、 物質交換を促進する
組織や臓器に活力を与えるには、血液で運ばれたさまざまな物質を組織に与え、組織で生じた老廃物を血液で運んで処理しなければならない。このような物質交換に関与する血管透過性を亢進させて物質交換を促進する。


プロスタグランジンについて

プルスタグランジンには前述したように過度の胃酸の分泌を抑制する作用があるが、それとは関係なく発揮される胃腸の粘膜防御作用、換言すれば細胞保護作用の中心的役割を果たす生体内活性物質である。それ故、消化性潰瘍の予防、治療で重要な役割を果たす物質と言う事ができる。
 
次にプロスタグランジンの作用をまとめておく。
(1) 粘膜の産生と分泌
(2) 重炭酸イオン分泌の増加
(3) 消化酸素の血中への遊離を抑制することによる細胞膜の安定化
(4) ナトリウムポンプの維持
(5) 粘膜血流量の維持
(6) 酸分泌の抑制
(7) 細胞回転の促進

■その他の化学的作用物質

キニンはプレカリクレインにプラスミンが作用してカリクレインになりこれが活性化したキニノーゲンから合成されるため、カリクレインーキニン系と呼ばれる。
なおキニンにはキニノーゲンとカリジンがあるが、その主な作用は血管拡張作用と血管透過性の亢進である。
またプラスミンは前途の作用に加えフィブリンを分解する酸素としての作用があり、血液の凝固を阻止し血流を促進する。 そのため微小循環障害を予防し、粘膜防御機構を保持する効果がある。


■おわりに

光線療法が消化器系に属する器官、臓器に及ぼす影響について大要を述べたが、これまでの既述から、光線が胃腸の機能を活発にして食欲を増し体力や抵抗力を高める上で有用な治療法になる根拠を理解して頂けたと思う。殊に、胃弱・胃無力症・胃液欠乏症を始め、虚弱体質などのため食欲不振になり中々回復しない症例には、光線療法は補助的にも最も適した治療法となり得る。なお鉄分の吸収を促す作用があり、鉄欠乏性貧血の治療に効果がある。
  また消化性潰瘍に対して光線療法はしばしば卓効を奏するが、これまでの消化性潰瘍の症状の発言に周期性を認めることに関する研究から、その効果は主に紫外線の作用と考えられているが、光線によって生成される生体内活性物質の作用から首肯し得るのである。
  最後に文中で述語(専門用語)を多様したことをお詫びしたい。
分かりにくい点のあることを危惧しているが、筆者の意図を汲み取って頂ければ幸いである。



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