2012年5月7日月曜日

大腸癌: 消化管の腫瘍: メルクマニュアル18版 日本語版


大腸癌は非常に多い。症状には血便や排便習慣の変化などがある。スクリーニングは便潜血検査を用いる。診断は大腸内視鏡検査による。治療は,外科的切除およびリンパ節転移に対する化学療法である。

米国では,大腸癌の年間症例数は約130,000例,年間死亡数は約57,000例である。欧米では,大腸癌の年間新規症例数は,肺癌を除けば,どの解剖学的部位の癌よりも多い。発生率は40歳で上昇し始め,60〜75歳でピークに達する。全体的には,直腸癌とS状結腸癌が70%,腺癌が95%である。結腸癌は女性に多い;直腸癌は男性に多い。同時性重複癌(2つ以上)が患者の5%において起こる。

病因と疫学

大腸癌は,ほとんどの場合,腺腫性ポリープ内癌として発生する。症例の約80%が散発性,20%が遺伝性である。素因として,慢性潰瘍性大腸炎および肉芽腫性大腸炎などがある;これらの疾患の罹患期間とともに癌のリスクが増加する。

大腸癌の発生率の高い集団は,動物性蛋白質,脂肪および精製炭水化物を多く含む低繊維食を食べている。食事から発癌物質が摂取されることがあるが,それらは,食物中の物質,胆汁,または腸分泌物に対する細菌の作用により発生する可能性が高い。正確な機序は不明である。

大腸癌の進展には,腸壁を貫通して直接浸潤,血行性転移,所属リンパ節転移,神経周囲浸潤,管内転移がある。

症状と徴候

大腸腺癌は増殖が遅く,症状が現れるほど十分大きくなるまでに長い期間が経過する。症状は,病変の部位,型,範囲および合併症により異なる。

右側結腸は内腔が広く,壁が薄く,腸内容も液状であるため,閉塞は末期に起こる。出血は通常,肉眼でみえない。重度の貧血による疲労と衰弱が唯一の訴えのこともある。他の症状が現れる前に,腹壁を通して触知できるくらい,腫瘍が大きく成長することがある。

左側結腸は内腔が狭く,便は半固形状で,癌は全周性の傾向があるため,便秘と排便回数の増加または下痢が交互に起こる。疝痛性の腹痛を伴う部分閉塞または完全閉塞を認めることがある。血液が便に縞状に付着,または混入することがある。一部の患者は,穿孔,通常は被覆穿孔の症状を呈し(限局性の痛みおよび圧痛),または,まれに汎発性腹膜炎を呈する。

直腸癌の最も一般的な発現症状は,排便時出血である。明らかな痔核または既知の憩室疾患がある場合でも,直腸出血が起こればいつでも癌の併存を除外する必要がある。しぶりまたは残便感があることがある。直腸周囲への浸潤がある場合には痛みを伴うことが多い。

一部の患者は転移病変の徴候と症状(例,肝腫大,腹水,鎖骨上リンパ節腫大)を最初に呈する。

スクリーニングと診断


"勃起不全の発生"

スクリーニング: 早期診断は,ルーチン検査,特に便潜血(FOB)検査に依存している。この検査法により発見される癌は,早期癌の傾向があるため,治癒の可能性が高い。平均リスク患者においては,50歳以上を対象として,年1回便潜血検査,5年毎に軟性S状結腸鏡検査を行うべきである。S状結腸鏡検査の代わりに,10年毎に大腸内視鏡検査を行うよう勧めている専門家もいる。3年毎の大腸内視鏡検査はさらによいであろう。高リスクの疾患(例,潰瘍性大腸炎)を有する患者のスクリーニングは特定の条件下で可能である。

診断: 便潜血検査陽性の患者は,S状結腸鏡検査またはバリウム造影上の病変を有する患者同様,大腸内視鏡検査を必要とする。組織学的検査のために,全ての病変を完全に切除すべきである。病変が無茎性または大腸内視鏡検査時に切除できない場合は,外科的切除を積極的に検討すべきである。

バリウム注腸X線検査,特に二重造影法は多くの病変を発見できるが,大腸内視鏡検査よりもやや精度が低く,初期の診断検査としては望ましくない。

癌が診断された時点で,転移病変,貧血を探し,全身状態を評価するために,腹部CT,胸部X線およびルーチンの臨床検査を行うべきである。

血清癌胎児性抗原(CEA)は大腸癌患者の70%で高値を示すが,本検査は特異的ではないので,スクリーニング検査としては推奨されない。しかしながら,CEAが術前に高値を示し,大腸腫瘍切除後に低下した場合には,CEAのモニタリングが再発の早期発見に役立つことがある。CA19-9およびCA125は,同様に用いられる別の腫瘍マーカーである。

予後と治療

予後は病期により大きく異なる(消化管の腫瘍: 大腸癌の病期分類表 2: を参照)。10年生存率は,癌が粘膜に限局している場合はほぼ90%;腸壁を貫通して浸潤している場合は70〜80%;リンパ節転移陽性の場合は30〜50%;遠隔転移がある場合は20%未満である。

表 2

大腸癌の病期分類

病期

腫瘍 (最大深達度)

所属リンパ節転移

遠隔転移

0

Tis

N0

M0

I

T1またはT2

N0

M0


CTの造影剤は、嘔吐を引き起こす

II

T3

N0

M0

III

全てのTまたは

T4

全てのN

N0

M0

M0

IV

全てのT

全てのN

M1

TNM分類:Tis =上皮内癌;T1 =粘膜下層;T2 =固有筋層; T3 =全層に浸潤(直腸癌では直腸周囲組織を含む);T4 =隣接臓器または腹膜。

N0 =ない;N1 = 1〜3個の所属リンパ節;N2 = 4個以上の所属リンパ節;N3 =上リンパ節または動脈幹リンパ節。

M0 =ない;M1 =ある。

手術: 遠隔転移のない患者の70%において根治手術を試みることができる。根治手術は腸管分節の再吻合を伴う,腫瘍の広範囲な切除および所属リンパ節郭清からなる。病変と肛門縁の間の正常腸管が5cm以下の場合は,永久的人工肛門造設術を伴う腹会陰式切除術を行う。

衰弱していない特定の患者に,その後の処置として少数(1〜3)の肝転移の切除が推奨される。基準は,原発腫瘍が切除されている,肝転移が1つの肝葉,および肝外転移がない患者である。ごく少数の肝転移患者が,これらの基準を満たすが,術後の5年生存率は25%である。

補助療法: 化学療法(典型的に,5-フルオロウラシル+ロイコボリン)によって,リンパ節転移陽性結腸癌患者の生存率が10〜30%改善する。転移陽性リンパ節が1〜4個の直腸癌患者には,放射線療法と化学療法の併用が有効である;転移陽性リンパ節が4個を越える場合,併用療法はそれほど効果がない。直腸癌の切除可能率の向上またはリンパ節転移の発生率の低下を目的とした術前放射線療法および化学療法が支持されつつある。

経過観察: 術後,5年間は年1回大腸内視鏡検査を行うべきであり,ポリープまたは腫瘍が発見されなければ,その後3年毎とする。閉塞性大腸癌のために,術前の大腸内視鏡検査が不完全であった場合には,手術の3カ月後に"全"大腸内視鏡検査を行うべきである。


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再発を調べるための追加スクリーニングとして,最初の3年間は3カ月毎に,その後2年間は6カ月毎に病歴聴取,身体診察および臨床検査(CBC,肝機能検査)を行うべきである。1年毎の画像検査(CTまたはMRI)がしばしば推奨されるが,診察や血液検査で異常がみられない場合に,ルーチンのフオローアップとして有効であるかどうかは不明である。

姑息的治療: 根治手術が不可能な場合,または患者に容認できない手術リスクがある場合には,限られた緩和手術(例,閉塞の解除または穿孔部位の切除を目的とする)の適応となることがある;生存期間の中央値は7カ月である。一部の閉塞性腫瘍は,内視鏡的レーザー治療もしくは電気凝固により縮小,またはステントによって開存性を維持できる。化学療法により,腫瘍が縮小し,生存期間が数カ月間延長することがある。

イリノテカン(カンプト),オキサリプラチン,レバミゾール,メトトレキサート,フォリン酸,セレコキシブ,サリドマイドおよびカペシタビン(5-フルオロウラシルの前駆体)などの他の薬物が検討されている。

転移性大腸癌の治療において他のどの治療法よりも明らかに有効な治療法はない。進行結腸癌の化学療法は,治験薬を入手できる経験豊富な化学療法医が管理すべきである。

転移が肝臓に限局している場合には外来で,皮下埋め込み式ポンプまたはベルトの上に装着された外部のポンプを通しての,フロクスウリジンまたは放射性のミクロスフェアの肝動注療法が,全身化学療法よりも有効なことがある;しかしながら,これらの治療法の効果は不明である。転移が肝外にもある場合は,肝動注化学療法は全身化学療法より劣る。

肛門直腸癌

最も一般的な肛門直腸癌は腺癌である。肛門直腸の扁平上皮癌(非角化型または類基底細胞型)は遠位大腸癌の3〜5%を占める。基底細胞癌,ボーエン病(表皮内癌),乳房外パジェット病,総排泄腔由来癌,および悪性黒色腫はまれである。他の腫瘍には,リンパ腫,および様々な肉腫がある。直腸のリンパ管に沿って,鼠径部リンパ節に転移する。

危険因子には,ヒトパピローマウイルス(HPV)感染,慢性瘻孔,肛門皮膚の照射,白斑症,性病性リンパ肉芽腫および尖形コンジロームなどがある。合意の上で肛門性交を行う男性同性愛者はリスクが高い。HPV感染患者では,軽度に異常なまたは正常な外観の肛門上皮に異形成がみられることがある。(組織学的グレードⅠ,Ⅱ,またはⅢに分類される"肛門上皮内腫瘍")。これらの変化はHIV感染患者,特に男性同性愛者に起こることが多い。さらに悪性度が高いものは浸潤癌へと進行することがある。早期発見と治療によって長期転帰が改善するかどうかは不明である;したがって,スクリーニング勧告は不明である。

広範な局所切除は,しばしば肛門周囲癌の満足のいく治療である。化学療法と放射線療法の併用は,肛門扁平上皮腫瘍および総排泄腔由来腫瘍においては,高い治癒率につながる。放射線療法および化学療法で腫瘍の完全退縮が認められず,照射野外に転移を認めない場合には,腹会陰式切除術の適応となる。

遺伝性非ポリポーシス性大腸癌


遺伝性非ポリポーシス性大腸癌(HNPCC)は,大腸癌症例の3〜5%を占める常染色体優性疾患である。症状,初期診断,および治療は他の種類の大腸癌と同様である。HNPCCは病歴により疑われ,遺伝子検査により確定される。患者はまた,他の悪性腫瘍,特に子宮内膜癌および卵巣癌のサーベイランスを必要とする。

いくつかの既知の突然変異のうちの1つを有する患者では,大腸癌(CRC)を発症する生涯リスクは70〜80%である。散発性結腸癌に比べて,HNPCCは若年層(40代半ば)で起こり,病変は脾彎曲部の近位にある可能性が高い。他の主要な遺伝性CRCである家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)患者において認められる多発性腺腫とは異なり,前駆病変は通常,単発性大腸腺腫である。

しかしながら,FAPと同様,数多くの結腸外症状が起こる。非悪性疾患として,カフェオレ斑,皮脂腺腫瘍,およびケラトアカントーマなどがある。一般的な関連悪性腫瘍として,子宮内膜癌および卵巣癌(リスクは70歳までに,それぞれ39%および9%となる)などがある。患者はまた,尿管,腎盂,胃,胆道系,および小腸の癌のリスクが高い。

症状,徴候,診断

症状と徴候は他の種類の大腸癌と似ており,腫瘍自体の診断および管理は同じである。遺伝子検査でHNPCCの特異的診断を確定する。しかしながら,(FAPとは異なり)典型的な臨床所見がないので,検査の対象者を決定するのは困難である。したがって,HNPCCの疑いがある場合は,詳細な家族歴が必要となり,CRCが確認された全ての若年患者から家族歴を聴取すべきである。

HNPCCのアムステルダム診断基準Ⅱを満たすためには,以下の3つの家族歴全てを有する必要がある:(1)CRCまたはHNPCC関連悪性腫瘍を有する血縁者が3人以上,(2)少なくとも2世代にわたる大腸癌,および(3)50歳未満で診断されたCRC症例が1例以上。

これらの基準を満たす患者の腫瘍組織を,マイクロサテライト不安定性(MSI)と呼ばれるDNA異常について検査すべきである。MSIが認められる場合には,HNPCCに特異的な突然変異に対する遺伝子検査の適応となる。MSI検査を開始するために,補足基準(例,ベセズダ基準)を用いる専門家もいる。MSI検査を現地で実施できない場合には,患者を実施可能施設に紹介すべきである。

HNPCCが確認された患者は,他の悪性腫瘍のスクリーニングを継続する必要がある。子宮内膜癌に対しては,年1回の子宮内膜吸引または経腟超音波検査が推奨される。卵巣癌に対しては,選択肢として年1回の経腟超音波検査および血清CA125値などがある。予防的子宮摘出術および卵巣摘出術を選択することもできる。腎腫瘍のスクリーニングに尿検査を用いることがある。

HNPCC患者の第1度近親者を対象として,20歳代から1〜2年毎に大腸内視鏡検査を行うべきであり,40歳以降は年1回とする。女性の第1度近親者については,年1回子宮内膜癌および卵巣癌の検査を行うべきである。それよりも遠い血縁者には遺伝子検査を行うべきである;結果が陰性の場合は,平均リスク患者に対する頻度で大腸内視鏡検査を行うべきである。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月



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